夢 前編(ミンギュ) 小説 SEVENTEEN
(写真:ミンギュ)
キムミンギュは、幼い頃から夢に向かって、ただひたすら走る高校2年生だ。
練習生になってから数年になろうとしている今。優しいヒョン、可愛い弟のような存在が一度にできてから毎日が充実していた。
そんな充実した生活が、最近増して輝いていた。
というのも彼にとって人生初めての彼女ができたのだ。
その彼女は小学生からの幼なじみで、今、ミンギュには何よりも彼女が大切だった。
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練習室で一人ソワソワしだすや否やミンギュはスンチョルの元に駆け寄ってそっと耳打ちする。
「ヒョン…ごめん、今日なんだけど…」
「あ、そうだった。こっちのことは気にしないで、楽しめよ!」
笑いながらミンギュの背中をバシと叩く優しいリーダー。
「えー、うそー、ミンギュー!?デート〜?」
遠目でジョンハンがミンギュを見ながらニヤリと笑う。
そう、今日は久しぶりの彼女とのデートだった。練習生であるミンギュを気遣って、すぐに会いたい。と言わないようにしてくれる彼女。我慢させてることに申し訳なさを感じながらも、そんな関係だったから、ミンギュにとって彼女がパワーの源だった。
今はヒョン達にからかわれたって、余裕に振る舞えるほどほど早く彼女に会いたい気持ちが先行している。
「ヒョン達ごめん!ありがとう!お先に!」
ミンギュは厚手のコートを羽織ると練習室を飛び出した。
走っているからか、興奮からかは定かではないけれど、ヒンヤリとした空気だって、今のミンギュには涼しい程に感じられる。
待ち合わせ場所まで、あと少し。最後の坂道を下っていると、彼女の姿が見えてきた。
「ミンギュ!」
ミンギュの影を見つけては小さな体で飛び跳ねて、ミンギュを呼ぶ愛しい彼女。
幼い頃から一緒にいたのに、「彼女」になってから、ミンギュには彼女が全て可愛く見えた。
「バカ、危ないから歩道側にいろって。」
微笑みながら、車道側にいた彼女を内側に寄せる。
顔を赤くしている彼女を見ていると、本当に恋人なんだと実感がして、幸せだった。
歌手になる、という夢はまだ叶っていないけれど、とにかく今ミンギュの人生の中では一番幸せな瞬間だったのだ。
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二人は映画や食事、ゲームセンターなどベタなデートコースを全て終えてイルミネーションの中を歩いていた。
ミンギュは見慣れた風景でさえ新しく感じさせてくれるイルミネーションが好きだった。
来年も来よう、と言おうするまさにその時、彼女が立ち止まった。
「…?。どうした?」
彼女のハンドバックがくしゃくしゃになっているのを見ると手に力が入ってるのが分かる。
暫くの沈黙の後彼女が口を開いた。
「…ミンギュ。私、ミンギュと出会えて幸せ。ありがとう。」
いつも笑顔でふざけあってる仲なので、こうやってかしこまって話されるのは初めてかもしれない。
どうした、いきなり。とにしかミンギュは思っていなかったけれど、精一杯の気持ちを伝えてくれた彼女を思うと愛しくてたまらなかった。
「俺も幸せ。お前のためにも絶対に歌手になるから。」
彼女の柔らかい髪に顔を埋めて彼女を力強く抱きしめた。
「またね。」
最後何気なくそう言って彼女を見送った。
それが彼女へ伝える最後の言葉だとはまだミンギュも知らなかったのだ。
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