【五線紙とアメリカーノ】ウジ 小説 SEVENTEEN
写真:ウジ(ジフン)
練習生になって数年。
メンバーにチューしてください、なんていう無茶振りが過ぎるお題で動画を撮ることがあった。
「ジフン君は初チューまだですー!」なんて、メンバーに揶揄われ、「本当なの?!」と事務所スタッフからも驚かれる有様。
だって、そういうのには縁がなかったんだ。
興味は無いなんてことは無いけれど、他のメンバーと違って背が高いわけでもないし華やかでもないから。
というかそんな暇があったら音楽に触れてたかった。
「ジフニヒョン、何してるの?」
「ん〜…?」
チャニに言われて重たい瞼を開く。
もちろん場所はいつもの作業部屋。
気付けば、散らばった五線紙に顔を埋めて眠りについていたようだ。
眠る前にジョンハニヒョン入れてもらったコーヒーはすっかり冷めていた。
「 …あったかいコーヒー飲みたい。」
今更アイデアも浮かばないし、気分転換に外に出ることにした。
元から音楽が好きでこうして練習生として生活しているけれど、少し前、今まで作ってきた曲を社長に発表したのが思いの他に好評だったことから、最近は曲作りにも没頭する毎日。
パソコンに向かって作曲することがベースだけれど、いつでもメロディーや歌詞が思いついた時用に、カバンには録音機と五線紙を常備している。
そのカバンを持って、いつも行くコーヒーショップとは別の、もう少し歩く距離にある新しいカフェに向かってみる。
いつもの道とは違う道を歩きたい気分だった。
目的地に到着する。
人は時間帯もあってかまばらだった。
「アメリカーノひとつ。」
注文カウンターで注文して、コーヒーができるまで窓側の席へ座る。
いくらここが人通りが少ない街とはいえ、ソウルだから、どこでも多くのカップルが見渡せる。
彼らの表情で恋がどんなものか、なんて想像しながら歌詞を書く手を進めていると、コーヒーの香りが近くに漂ってきた。
「お待たせしました。アメリカーノです。」
そう言って差し出す一人の女性の店員。
身長は170cmはあるだろうか、モデルのような体型に切れ長で奥二重の瞳がすごく大人びている。
でもとにかく…
「デカ…」
やばい、声に出た。ボーッとし過ぎた。
どうしようどうしようと思いながら顔を背けると
「君はちっさいねー!何歳?小学生?」
とイメージとは全く異なる荒っぽい口調であっけらかんと返してきた。けれどその口調に嫌味のようなものはない。きっと、俺への純粋な疑問なんだろう。
「…高2です…。」
顔から火が出るってこういうことか、
今までこんなことは何回もあったけれど、何故だか今回は異常なほど恥ずかしかった。
俺の言葉を聞くと、フリーズするその人。
「え…?!高校生?ご、ごめん、なさい!」
「いえ、大丈夫です。おねーさんの身長、羨ましいです。僕なんてもう伸びないかも。」
喋り終わってからハッとする。いつになく饒舌になっている自分にまた恥ずかしくなる。
「フフ、そんなこと気にしてるの?君、名前は?」
「イジフン、です。…あの、後ろが…」
店長らしき人が彼女に早く戻れ、と言わんばかりに睨んでいた。
「げ、バイトの途中だった。ちょっと待っててね!」
彼女はそう言いながらカウンターへと戻っていった。
ちょっと待ってて、だって。
何に?どうして?
今少し話したばかりなのに。不思議な人。
いや、不思議なのは僕もかも。
他人にこんな興味が湧いたのは初めてだ。
五線紙を開いて、再び外を眺めてみる。
変な人、なんて思いながらコーヒーを飲んでも、口元は思わず緩んでしまう。
そしてふと、メロディーが思い浮かんで、五線紙にペンを走らせた。
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